「地面に落ちているものは躊躇せずに食え」
というのが父と母の教えなのですが、
それを忠実に守っていた僕はどうやらウイルスに負けてしまったらしく、風邪を引いてしまいました。
激しい咳を繰り返し、ふらふらになりながら学校から帰った僕を待っていた晩御飯はグラタンでした。
母「お帰りなさい。晩御飯できてるよ」
僕「あ、ありがとう」
僕はゆっくりとグラタンを口に運び、まろやかな味わいを堪能しました。
グラタンは美味しいなあ。この世界がみんなグラタンでできていればいいのに。
頭がふらふらになっている僕はグラタンを口に入れながらこんなことを思っていました。
しかし、僕はグラタンの美味しさと、我が家の暖かい空気に当てられ、油断しきっていたのかも知れません。
僕は手元のスプーンを滑らせ、掬い取ったグラタンを地面に落としてしまったのです。
しかし、父と母は顔色一つ変えないで、僕に微笑みかけています。
僕「あ、あのさ」
母「なあに?」
僕「グラタン落としちゃったよ」
母「そうね。早く拾って食べなさい」
母は満面の笑みでそう言い放ちました。
僕「あ、あの、僕は風邪を引いているのですが……」
母「じゃあなおさら食べなくちゃ! 治る風邪も治らなくなっちゃうわよ?」
母親の主張は意味の分からないものでしたが、風邪でぼーっとしている僕は母親と真っ向勝負する体力も残っていませんでした。
僕「え、で、でも」
まごまごしている僕に腹を立てたのか、父が鬼の形相でこう叫びました。
父「何しとんのや! さっさと食ええや!! 食うか死ぬかのどっちかじゃ!! はよ選べ!!!」
僕「く、食うか死ぬか!? そんなの嫌だ! 僕は風邪だ! 風邪なんだ!!」
父と母「じゅ〜〜〜〜う。きゅ〜〜〜〜〜〜〜う。は〜〜〜〜〜〜〜〜ち。な〜〜〜〜〜〜〜〜な。」
父と母の嬉しそうなカウントダウンの声は僕の頭の中にガンガン響き渡ります。
僕「やめてくれ。食べない。僕は食べない」
弟「情けないな。兄貴。こうするんだよ(妖怪のような声)」
隣を見ると弟が食パンを地面になすりつけて食べています。
一口食べてはなすりつけて、一口食べてはなすりつけて。
僕「あ、あああああ」
兄「さっさと食え。ゴミ程の価値しかないお前にはゴミがお似合いだ」
僕「う、うわあああああああああああ!!!!!!」
僕は食べました。無我夢中で食べました。
地面に落ちたグラタンは砂利の味がして美味しかったです。
(3月14日の日記より)