3月13日
昔、僕にはM君という友人がいました。
今回はそのM君を不幸にしてしまった僕の懺悔の話です。
本当に不注意だった。許してM君。
『シュレッダー〜悪意の塊〜』
皆さんは「ミュータント忍者タートルズ」という作品をご存知でしょうか?
僕は小学生の頃、その映画が大好きで、繰り返し何度も見ていました。
何度も何度も。
なので、ミュータント忍者タートルズのゲームが発売された時、必死に親にねだって買ってもらったのも無理は無い話でした。
買ったその日に早速家でプレイしてみたのですが、これがまた面白い。
まさに痛快アドベンチャーとはこのことでした。
しかし、どうも僕にはゲームの才能が無いらしく、全然先に進めません。
どうしてこんなに難しいんだろう。と、思いながらゲームをよーく見ると、
「二人協力プレイ可能」
とのこと。すげえ。タートルズすげえ。
次の日、早速僕は学校でパートナー探すことにしました。
一緒にシュレッダー(悪の親玉)を倒してくれる同士を。
そうして、僕が見つけたパートナーはM君。勉強が大好きな優等生でした。
もちろんタートルズの大ファンです。まあタートルズのことを嫌いな人がいるわけが無いですが。
早速僕達は家へ向かい、タートルズをプレイし始めました。
すると、M君はこのゲームを初めてやるとは思えないほどの滑らかな動きを見せ、(これにはさすがに引いた)
鮮やかに敵を倒していくMVP的な活躍を見せました。
「すごい。これなら全クリできる」
僕は確信しました。村上君のおかげで全クリできる。
あ、言っちゃった。まあいいべ。村上君。
そして、
いよいよ最終ステージへ到達。悪の親玉シュレッダーが姿を現しました。
もちろんここまで来たのは初めてです。
(すごい。最後のボスまで来た。兄ちゃんに自慢できる)
そう思ったとき、ちょうど兄が友達を連れて帰ってきました。
僕は誇らしげにシュレッダーと闘います。
すると、兄は僕にこう尋ねました。
「こいつ、誰?」
え?
兄ちゃん、忘れちゃったの?
「シュレッダーだよ! 最後のボス、シュレッダー!!」
「え? こいつがシュレッダーなの!?」
「そうだよ。当たり前じゃん」
部屋に笑い声が響き渡りました。
異変を感じた僕は振り返り、兄のほうを見ました。
兄の指はテレビのモニターではなく、村上君をさしていました。
「いらっしゃい。シュレッダー」
兄はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、村上君に手を差し伸べました。
「ち、違う。間違えた。それは友達」
必死に叫んだ僕の声はもう兄には届きませんでした。
兄は村上君を完全にシュレッダーだと認識し、しきりに声をかけました。
「うまいじゃん。シュレッダー」
「やられちゃうよ? シュレッダー」
村上君の顔はどうみても一般人なのに……。
そんなことを考えていると、ガマンしていたものがはじけとび、
僕はついに爆笑してしまいました。
びっくりしてこっちを振り向く村上君の弱そうな顔。この弱そうな人がシュレッダー。
僕の笑いはもう止まりませんでした。
結局、全クリはできずに、僕と村上君はシュレッダーにやられてしまい、僕の安易な発言は村上君の心に大きな傷を残してしまいました。
村上君はゲームが終わった瞬間、家を飛び出していきました。僕は慌てて村上君を追いかけます。
「また来いよ。シュレッダー」
後ろから聞こえる兄の声。僕は笑いをこらえながら村上君を追いかけました。
正直、このときほど兄の事を恨んだ日はありません。
だって、僕は村上君と気まずいままお別れになったのですから。
村上君は1年後に別の学校に転校していきました。
村上君の行方は完全に分からなくなったけど、
幸せになっていてくれたらいいな。
そうして、十年後。
村上君から1通の手紙が届きました。
「僕は今、遠い異国の地で頑張っている」と、書かれた手紙でした。
手紙の中には写真が1枚。
もちろんタートルズと闘っている写真です。
「頑張れよ……。シュレッダー」
僕はそうつぶやき、静かに写真をしまいました。
そして、村上君の顔を思い出し、爆笑しました。
とさ。