深夜2時。
兄が突然帰ってきて、
「2時間後に起こせ」と一言。
「無理だよ!! 兄ちゃん!!! それはダメだ!!!!!」
僕の必死の訴えを無視して、兄は5秒後に眠りについた。
やばいよ。これやばいよ。
兄はめったに寝ない。
だからこそ起こすのがつらい。
そして兄は怖いのだ。僕の生涯出会った人間の中で一番怖いのが兄だ。(2007年現在)
あああ、何で僕は寝なかったのだろう……。まだ死にたくないよ。
まあ、色々言っていても仕方がない。兄を起こさなければいけないと知っているのは僕だけ。
地球で僕だけだ。
僕は2時間後に備えて、準備運動を始めた。
「ふーーー、ふーーーー」
息を整えながら、腹に雑誌を仕込んでいく。(ボディーブロー対策)
さあ、四時だ。早速兄を起こそう。
とりあえず、超機嫌の悪い兄の顔を軽く叩いてみる。
「起きて、起きて」
もちろん、ビクともしない。
「おはよう〜〜。さあ、朝だよ〜〜。起きて〜〜。起きて〜〜。今日も一日、頑張ろうね〜〜」
ウチの目覚まし時計のマネをしてもさっぱり起きる気配がない。
くそっ。第2段階に入ろう。
僕はコップに並々と水を汲み、勢いよく兄の顔にかけた。
無反応。本当になんなの? この人……。
でも、僕は経験上知っているんだ。
水をかけるなら顔よりも腹。腹に水をかけられると人間は飛び起きる。
僕は水をもう一杯汲み、兄の腹にぶちまけた。
「うあ!!」
兄が起きた。やった。ミッション・コンプリート!!!
兄は普通に起き上がり、僕の顔にパンチを1発。
「お前、ふざけんなよ!?」
「はい、スミマセンでした……」
そういって再び眠りにつく兄。今までの経験上、僕を殴った事は兄の記憶に残らないらしい。て、いうかもう仕事休んでくれ。
ああ、顔が痛い。キャッチャーマスクをかぶっておけばよかった。
しかし、ここでやめるわけにはいかないので、オーソドックスに揺すってみる事に……。
「兄ちゃん、兄ちゃん!!」
背中の刺青がちらちらと目に入る。いや、見てない。僕は何にも見てない。僕達は仲良し兄弟だ。
「おい、そこの足場崩しておけ!!」
あ、寝言だ。
「今回はユンボはいらねえ」
揺すっても揺すっても、寝言しか返ってこない。
それでも必死に揺する僕。すると、兄が薄く目を開けて一言。
「お前、職人か!?」
「違います!! あなたの弟です!! 起きてください!!!」
「うるせえよ! 揺するんじゃねえよ!!」(←ひどくないですか?)
「はい……。すみません」
兄は起きない。すでに起こし始めて30分が経過している。遅刻しちゃうよ兄ちゃん!!
僕はあきらめかけ、天井に向けて叫んだ。
「ああ〜〜、めんどくせえ!!!」
すると、今まで起きなかった兄が起き上がり、僕を睨んだ。
「は? お前何言ってんの?」
「あ、おはようございます(目をそらしながら)」
どうやら、今までで一番効果があったらしい。て、いうか怖ええよ。何その反応。超心狭えよ。
兄は起きてニッカに着替え始める。ようやく目が覚めて、機嫌も戻ってきたらしい。
「時間大丈夫?」
「ああ、大丈夫。お前の使えなさを計算に入れて、30分前に頼んどいたから」(←ひどくないですか?)
「ああ、そうなんだ」
いや、僕頑張ってるほうだと思いますけど。喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「お前、顔、なんか変だぞ? どうした!?」
「あ、兄ちゃんに殴られた」
「マジ!!?」
「マジ」
「ワリィな。じゃあ行ってくるわ」
こうして兄は仕事に向かった。
て、いうかやっぱり覚えてなかったよ。ひどいぜ!! 兄貴!!
その日の夜、僕の枕元にはコアラのマーチが置いてありました。
顔を殴ったお詫びのようです。安。