罰ゲーム倶楽部 第1ゲームじゃんけんぽん
「ねえ、何かいいことあったの?」
優衣がそう訪ねると、何故か裕子の隣にいた名前も知らない女の子が返事を返してくる。
「ユッコ、修二先輩に告白されたんだって」
「え〜! 修二先輩って、あの中川修二?」
「当たり前でしょ。他に誰がいるの?」
優衣は身を乗り出した。中川修二先輩と言えば、学校で1・2を争う美形の男だ。失礼な言い方だが、現代の美人の定義には当てはまらない裕子には少しハードルが高い。
「裕子、修二先輩と付き合うの?」
優衣の問いに、裕子は恥ずかしそうに口を縮めて答えた。
「……うん」
その顔が熊のぬいぐるみみたいで、なんだか愛らしい。うん。確かにちょっと可愛いかも……。
なるほどねと、優衣は大きく頷いた。裕子の周りに人が集まるわけだ。これは大スキャンダル。年に1度くらいしかないほどの大きなニュースだ。修二先輩と付き合うことになった裕子はこれから時の人となって、今よりも更にちやほやされ始めるだろう。
でも、何で裕子……? ウチのクラスでもあんまり目立つほうでもないし、自己主張の少ない裕子は同じ1年生の中でもあまり認知されていない。これは何か謎がある……。
「……なんてね。やばいやばい」
優衣は頭に浮かんだ失礼な考えを振り払った。人の幸せを単純に喜べないのは自分がすれている証拠だ。今は単純に裕子を祝福してあげなきゃ。やっぱりあれだ。今日は幸せの日なんだよ。夏は燃え上がる恋の季節だし、どんなカップルが生まれても不思議じゃない。
自分の中で完結すると、優衣に再び睡魔が襲ってきた。机に倒れこみ、優衣はゆっくりと目を閉じる。
その日、太陽は明るくて、風は爽やかで、優衣のいる1年1組は幸せに満ちていた。
優衣が「幸せの日」と名づけたこの日、とんでもない事件が起こってしまう事はまだ誰も知らない。
そして、今までにない程のとんでもない窮地に立たされてしまうのが、優衣自身であることなど、本人はまだ知る由もなかった。
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