日記を書こうとすると、変な内容になってしまいます。多分病気です。

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2月22日(Re;ケツメイシ)

 

弟がipodを購入して、僕に「曲を入れて」と頼んでくるので、死ぬほど入れてあげました。(2000曲ぐらい)

 

僕は弟からの礼を待っていたのですが、テンションが上がった弟はipodの音量の所を狂ったように回し続けているので、

僕は黙ってその場をあとにしました。

 

それから数日後、家に帰ると弟が無表情でipodをいじくっていたので、僕が入れた曲を聴いているのかを確かめるために話しかけてみました。

 

「よ、何聴いてんの?」

 

「ん? ケツ」

 

け、ケツ!!?

僕は耳を疑いました。そんなアーティストは入れた覚えもありません。

 

「だ、誰だよそれ。ケツ? あ、ひょっとして曲のタイトル? い、いや入れてねえぞそんな曲」

 

僕が一人でテンパっていると、弟はゴミを見るような目つきで僕を睨みつけてきました。

 

「兄ちゃんってケツメイシも知らないの? 」

 

「ケツメイシ? え? ケツメイシを略したの?」

 

「そうだよ。ケツメイシ。略してケツ。今、高校生の間じゃそうやって呼んでるんだよ」

 

「し、知らなかった」

 

本当に時代の流れは恐ろしいと思う。いつの間にかケツメイシがそんな略し方をされているなんて……。

しかし、僕の弟は僕宛にかかってきた電話に「兄は死にました」とか真顔で言えてしまうほどの嘘つきなので、どこか信用がおけません。

 

そんな僕の疑った顔色を察したのか、弟はイラッとした表情に変わりました。

 

「信じないなら別にいいよ。時代に乗り遅れて死んでくれ」

 

「信じないなんて言ってないだろ!!!」

 

思わず大声を出した僕を、弟は驚いた表情で見つめました。僕も真剣に弟を見つめ返します。

 

「信じるよ。ケツだろ? 俺は明日からそう呼ぶよ。ケツメイシ。略してケツ」

 

「兄ちゃん……」

 

人を信じる。なんて素晴らしい言葉だろう。例え世界中の人間が弟を信じなくても僕だけは信じてあげる。

 

それが兄弟というものなんだ。

 

それから更に数日が経ち、僕が学校に行くと

女の子の後輩がパソコンでケツメイシの曲を流していました。

 

普段、後輩達との関わりが絶望的に少ない僕はケツメイシをきっかけに仲良くなろうと思い、こっそりと背後から近づきました。

 

「おはよー」

 

「あ、おはようございます。先輩」

 

「いい曲聴いてるね」

 

「あ、昨日買ったんですよ」

 

後輩は目をキラキラと輝かせながらCDのジャケットをこちらに見せてきます。

僕は笑いながら頷きました。

 

「いいなあ。俺も欲しいよ。ケツのCD」

 

「は?」

 

さっきまで目を輝かせていた後輩の顔色がどす黒く濁りました。

しかし、僕は空気の読めない男なので、後輩の顔色に気づかずにもう一度繰り返します。

 

「ケツって本当にいい曲出すよなあ。やっぱ最高だよ。ケツ」

 

「……めて…さいよ」

 

気がついたらパソコンの電源を切り、小さな呟きをもらす後輩。僕は顔を覗き込み、後輩に語りかけました。

 

「ん? どうした? もう一度聴こうよ。ケツの曲」

 

「やめてくださいよ!!!! ケツとかいうの!!!!!!」

 

突然、机を叩いてこちらを睨みつけてくる後輩。僕は慌てて物陰に隠れました。

 

「な、何で怒ってんの?」

 

「怒りますよ!! ケツって何ですか!! いい加減にしてください!!!」

 

後輩は本気で怒っています。可哀相に。この子は時代に乗り遅れかけてる。

僕が教えてあげなきゃ。

 

「いやいや、ケツメイシは若い子達の間じゃケツって呼ばれているんだよ」

 

「呼ばれてるワケねえだろ!! お前アホじゃねえのか!? 」

 

後輩はあまりの怒りでタメ口になっています。しかし、僕もここは譲れません。

 

「いやいや、略してケツって言うんだって。信じてくれよ!!」

 

「お前、本当に野垂れ死ね!! このセクハラやろう!!!」

 

後輩は僕を汚いものでも見るような目で見た後、地面に唾を吐いてゆっくりと立ち去りました。

 

 

僕は慌てて弟に電話をかけます。

 

「もしもし、兄ちゃん?」

 

「うん」

 

「どうしたの? 元気ないじゃん」

 

「ケツメイシって、略してケツだよな?」

 

「はは。んなワケねえだろ」

 

「え?」

 

「まさか信じたの? バカじゃん。 まさか、人に話してないよな?」

 

「あ、あ、話してねえよ」

 

「あ〜、よかった。偉そうに語ってたら人生終わってるよ。ケツとかありえないもんな。で? 用事は?」

 

「……それだけ」

 

「そう。そんじゃ切るよ〜。お疲れ〜」

 

「ああ。お疲れ」

 

信じる心ってなんだろう……。

僕の目からは大粒の涙がこぼれていました。