×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

TOPへ

五月のにゃっき。


5月19日(食べられる・食べられない・食べられる・食べられない・食べられる!!!)

 

「日給10000円のおいしいアルバイトがあるぜ?」

 

安田君の甘い言葉に騙された僕は、貴重な休日を潰して過酷なアルバイトをする羽目になった。

 

朝八時にバイト先のビニールハウスに向かった僕たちを待っていたのは、

出荷する野菜に虫がついていないかを確認するという地味な仕事だった。

 

周りを見渡すと、バイトする人達は結構たくさん集まっていた。

が、こんな仕事を好き好んで選ぶ人間にろくな奴はいない。

右を見渡しても、左を見渡しても、生きる事に疲れきったような顔が溢れている。

 

多分、こいつらの中の一人の利き腕を斧かなんかでぶった切っても、

 

「あ、別にいいですぅ」

 

なんて言って告訴を取り下げる雑魚みたいな人種の集まりだろう。

 

そんな事を考えていると、ビニールハウスに偉そうな男が一人入ってきた。多分このバイトの主任かなんかだろう。

 

「みなさんおはようございます。今日は『虫取り天国』に参加いただきましてまことにありがとうございます」

 

どうやらこのバイトは「虫取り天国」という名前らしい。

マズい野菜にたかる糞みたいな虫が天国のように取れたって、

僕は一切幸せを感じることはない。確実に。

 

「これから、皆さんには12時間かけてじっくりと野菜の中にいる虫たちを取り除いていただきます」

 

「え?」

 

突然の出来事に僕は絶句した。じゅ、12時間!??

 

 

ありえない。時給に換算すると900円いかないよ? 

 

バイトの人達はすぐに立ち上がり、爽やかな顔の主任にブーイングを飛ばした。

 

「安いぞー!!」

「労働基準法を無視するのか!!」

 

すると、先ほどまで仏の様な顔をしていた主任の顔が醜くゆがみ、金剛力士像のような恐ろしい顔に変わった。

 

「やかましいんだよ!! クソバエ共!!!  

野菜にたかる虫みてえなてめえらにはにはこれぐらいの給料しかでない仕事しかねえんだよ!! よく覚えておけ!!!」

 

主任の怒声が響くと、先ほどまであれほどブーイングを飛ばしていたはずのみんなが、一斉に「豚」と呼ぶにふさわしい顔に変わった。

世の中は弱肉強食なのだと改めて確認する。

 

主任は仏のような笑顔に戻り、「よろしい」と一言。

そして半笑いで僕たちにこう言い放った。

 

「あ、仕事中に気に入った虫が手に入ったら、好きに食べていいからな。ぶははははははは!!」

 

そういって主任は立ち去り、僕たちの前には山積みにされたレタスだけが残った。

僕は恨めしげに安田君の顔を睨んだが、僕とは対照的に安田君の顔は輝いていた。

 

「おい。ラビハチ! 食べていいんだってよ。虫!!」

 

涎をすすりながら野菜に手を伸ばす安田君を見た瞬間、僕は思い出した。

 

安田君は「口に含める物は基本的に食える」と思い込んでしまう難病にかかった男だったのだ。

 

安田君は野菜から取れる虫を次々と口に放り込み、淡々と作業を始めた。

 

その異常な光景を見て、他の人達も仕方なく作業を始める。

 

僕はこれからこの異常な空間の中で12時間も過ごすことに不安を感じていた。

 

悪い予感はあたるというが、僕のその不安は見事に的中する事になる。

 

 

 

5時間を過ぎた頃から、安田君の体に異常が起こり始めたのだ。

 

「へへ、へへへへ」

 

「や、安田君!?」

 

「うめえ。羽のついたヤツが超うめえ」

 

安田君は野菜を完全に無視し、虫を食べる事に全ての神経を傾けていた。

僕は慌てて安田君の前のレタスを奪い取った。

 

「やめるんだ! 安田君!!」

 

「うめえ。うめえよ。ラビハチ。お前も食ってみ? 羽のついたヤツ」

 

「やめてくれよ!! そんな安田君見たくねえよ!!!」

 

「へへへへへ。このバイトは文字どおり、美味しいバイトだな」

 

そういって豚のような笑みを見せる安田君。

 

そんな安田君に対して僕が出来る事は一つだけだろう。

 

僕は目に浮かんだ熱い涙を指で拭い、

手に取ったレタスを振り下ろして安田君の前歯を全部折ってあげた。

 

しかし、それでも安田君は虫を食べることをやめようとはしない。

 

「安田君!! 目を覚ませ」

 

僕は安田君に向かって何度も何度もレタスを振り下ろした。何度も何度も。

 

レタスに殴られ続けた安田君の顔が無残に腫れ、昆虫のように変わっていく。

 

ぐったりとしたまま動かなくなった安田君を抱きかかえ、僕は大声で呼びかけた。

 

「安田君! 安田君!! 大丈夫なの!?」

 

「ら、ラビハチ……。俺、お前のおかげで正気に戻ったよ……」

 

「よかった……」

 

「俺、これからは昆虫として生きていく」

 

「戻ってない!! 正気に戻ってないよ!!!」

 

「ああ、なんだか眠いや……。冬眠ってこんな感じなんだろうな」

 

「安田くん!! 眠っちゃダメだ!! 起きてくれよ安田君!!」

 

「ラビハチ……今までありがとうな……。次こそ昆虫に生まれ変わりますように……」

 

「安田くーん!!!!!!」

 

そういって安田君は冬眠に入った。

それは穏やかな春の1日の出来事だった。(昆虫絶滅しろ)