罰ゲーム倶楽部 第3ゲーム  ケイドロとお姫様


「空に何かあるの?」

 

 そう言って女の子は圭の隣に並び、窓の外に顔を出す。

 

 話しかけられるのは珍しかった。学校に入学してから4ヶ月が経ち、周りの生徒達はすでに自分の居場所を確保している。

 

 

 人間は自分達の立ち位置が定まれば安心する。だから一度手に入れた縄張りから遠く遠くに離れたりはしない。

 

 まるっきり離れた世界にわざわざ周りに活路を求めたりはしないのは、野生の動物達が自然と縄張りの範囲を分け合うようなものと同じだ。

 

 縄張りの条件はなかなか厳しい。

 

 なるべく自分と趣味の合う人間を。なるべく自分と同じ能力を持つ人間を。なるべく自分を喜ばせる情報を持っている人間を。なるべく自分に近い人間を。

 

 自分、自分、自分。分身との会話を楽しみ、思わぬ知識の共有に歓喜の声を上げ、どうでもいいような雑学を自慢げに話す。それで空白を埋めるんだ。

 

 ようは暇つぶし。潰す暇をわざわざ作りに行くような生き方。そんなくだらない人生を生きるやつばっかりだ。

 

 圭は周りの人間にそんなイメージを抱き、うんざりした目で世の中を見つめていた。もちろんこの女だって例外ではない。

 圭は女の子から視線をはずし、再び外を見ながら問いかける。

 

「で、あんた誰?」

 

「……え?」

 

 女の子の驚く声。それからしばらくの沈黙が続く。

 

 その沈黙が圭には心地よかった。話し相手なんかいらない。

 

 どうせこいつもちょっとした好奇心から知らない食べ物を口に含んでみようと近づいてきた気まぐれな女だ。

 

 まずかったら吐き出す。そんな軽い気持ちで近づいてきた女。

 

 その行為で周りの人間へアピールをするつもりなのだろう。

 

「自分は社交的な人間です」

 

「一人ぼっちの生徒を放っておけない優しい人間です」

 

「私は正義の味方です」

 

 くだらない。人柄を見せたいならてっとり早い方法を選ばずに、地味にボランティアでもやればいい。

 

 そんな事を考えながらふと女の子を見ると、口をパクパクと開けてあっけにとられた表情をしていた。

 

「ちょっと今の本気!?」

 

 女が眉間にしわを寄せながら圭の胸元まで近づいてくる。圭は思わず、窓枠に手をかけ反り返った。

 

「同じクラスになって4ヶ月も経つのにあたしの名前を知らない? あなたバカなんじゃないの!?」

 

「……興味ないから」

 

 女の子の迫力に押された圭は、自分でもびっくりするほど弱々しい声を出した。

 

「はあ。まあ別にいいけどね。私の名前は小夜子。興味ないとか言ってないで、今度はちゃんと覚えてよ?」

 

 そう言って小夜子は圭の目を見つめた。

 

「あ、……うん」

 

 圭は小夜子の迫力のせいか、無意識なうちに自然な返事を返していた。

 


116ページ

次へ    前へ     目次へ    TOPへ