罰ゲーム倶楽部 第3ゲーム  ケイドロとお姫様


「こうすると可愛くない?」

 

「可愛いけど、動きづらそうだぞ」

 

 子犬はよろよろしながらも、小さく尻尾を振って小夜子に擦り寄ってきた。

 

「ほらほら嬉しいって。この子はもうウチの子だ」

 

 そう言って小夜子は子犬を抱き上げた。圭はその光景を昔の自分と重ねあわせる。

 

 俺も、小夜子に拾われたようなもんだったのかもな。

 

 小夜子は困ってる人を放っておかない。自分よりも人を優先するその性格は圭もよく分かっていた。

 

「……そいつ、俺が飼ってみようかな?」

 圭がそういうと、小夜子は驚いて圭を見た。

 

「なんで?」

 

「なんでって、可愛いし、丁度ペットが欲しかったし」

 

 照れて目線を逸らしながら話す圭に、小夜子はニコッと笑って子犬を差し出した。

 

 抱き上げた子犬は小さく震える。圭は子犬の目を見つめた。

 

 人との付き合いでもらったたくさんの暖かさ。

 

 自分もそれを与える側の人間になれるだろうか? 

 

 思いつめたような表情を浮かべる圭の顔を、小夜子は横から見つめた。

 

「なんか顔が恐いよ?」

 

「え?」

 

 小夜子が茶化すように圭の頬を指でつつく。

 

「また小難しい事考えてるでしょ?」

 

 小夜子は圭の思惑を見透かした様な顔で偉そうに人差し指を立てた。

 

「もっと単純に考えていいんだよ。話しかけて欲しいならこっちから話しかける。好きになってもらいたいならこっちがまず好きになる。触れ合いたいなら手を差し伸べる。そんだけ」

 

「……ああ。そうだな」

 

 手を差し伸べる。まずはここから始めよう。

 

 圭は未来を想像してみる。小さな犬小屋を建てて、自分の愛情を注いで育てる。子犬はすくすくと育っていって、自分のかけがえのない命に変わるだろう。

 

 毎日毎日散歩に出る。もちろん隣には小夜子も一緒だ。

 

 そうなればきっと楽しい。今までの人生で置いてきてしまったものもきっと埋められる。

 

「楽しみだな……」

 

「何が?」

 

「いや、将来の事を考えるとさ」

 

 圭がそういうと、小夜子は心なしか沈んだ表情を浮かべたように見えた。

 

「うん。……そうだね」

 

「サヨ、どうかした?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

 空から真っ白な雪が降り出してきた。圭は子犬を抱えて立ち上がる。

 

「さて、可哀想な子犬を暖めてあげないとな」

 

「可愛がってあげてね」

 

 夕方、雪の色に染まる景色の中、二人は再び手を取り合って歩き出した。

 


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